ガンダムOO オリジナルBL小説

菜の花の咲く頃に ふたつめの道(2)

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 アレルヤがヒタヒタとティエリアの浸かる風呂まで近づいてくると、目の前に立った。湯の中のティエリアをじっと銀色の瞳が見下ろしている。いつもの肌の奥まで点検するような視線。瞬きもせずに、舐めまわすような露骨さを露わにする眼光。
 もう慣れた。
 そんなアレルヤのティエリアを何とも思っていない視線。
 玩具としか自分を見てくれていない態度。
 どうしてこんな関係になってしまったのか。複雑なことを考えるのが嫌いなティエリアでも、アレルヤのことは一生懸命考えた。考えて眠れない夜を過ごす、そういう時期もあった。でもどんなに考えても答えは見つからなくて、そしていつしか諦めてしまった。
「ティエリア、あんまり長く入っているとのぼせるよ。体洗ってあげるから出ておいで」
 シャツを捲ったアレルヤの腕がティエリアをお湯の中から引きずり出そうとする。
「い、いいって。自分で洗えるし、自分でやれるから」
「僕がやりたいんだから、いいんだよ。ティエリアは僕にまかせてくれれば」
「だ、だって…は、恥ずかしいじゃないかっ」
 アレルヤの手がティエリアの両脇下を支えて湯船からひょいっとティエリアを持ち上げる。自分だけ裸体であることに当然に羞恥を覚えてティエリアがもがいても、アレルヤの力は強くて逃れられない。
「恥ずかしい?」
 咄嗟に前を手で隠し肩をすぼめるティエリアに笑いかけるアレルヤは、優しいようで残酷だ。
 アレルヤは風呂から出たティエリアを抱えたまま、ティエリアの小ぶりの桶に入ったお風呂セットも持ちあげると、風呂場のところどころに設けられているブースの一つに向かった。
 このハレルヤの風呂屋には、よく一般的に見られる洗い場が一列に並んだ光景はない。かわりに、風呂と風呂の間のいろんな場所に個室もどきの洗い場があつらえてある。どの場所も他人からは少し見えづらくなっていてプライベートをある程度守ることができるようになっている。
 元来風呂屋でプライベートがあるのか……は別として。
 ハレルヤは意外にインテリアセンスがある。この風呂屋を改装した時は、かなり細かいところまで拘って自分で図面をひいた程だ。その時は誰もハレルヤに図面がひけるなどとは知らなかったので吃驚した。高校もろくすっぽ行かなかったハレルヤだが、興味があることには執着する性格で、子供の頃からハマれば日がな同じ事をしている子供だった。
『実は僕よりハレルヤの方が器用で繊細なんだよね』
 この風呂屋が完成した時にアレルヤが感心してそう褒めたら、ハレルヤは素直に照れていた。それからアレルヤとハレルヤ、ティエリアとニール、四人で完成祝いなるものもした。
 あの頃は普通だった。
 四人が普通に等距離で同じ関係だった。
 ティエリアの中ではアレルヤは幼い頃から特別だったけれど、それでもアレルヤとティエリアは普通の関係だったのだ。
 なのに、いつの間にかこういう関係になってしまった。
 床に備えつけてある木製の腰掛けにティエリアを座らせると、アレルヤはシャワーを勢いよく捻った。上からティエリアの顔ほども大きさがあるシャワーヘッドがザーッと大量の湯を降り注いでくる。
「アレルヤ、濡れる」
「いいよ。濡れて。いつものことだよね」
 アレルヤの洋服は当然の如くシャワーの跳ね水であっという間に湿り気を帯びてくるが、アレルヤは気にせずにティエリアの髪の毛を洗い始めた。座ったままのティエリアの頭にシャンプーをつけ、優しく頭をマッサージしながら洗ってくれる。
「ティエリア、眼を閉じているんだよ」
「わかってる」
「耳に水、入ってない?」
「大丈夫だ」
「頭、痒いところある?」
「ない」
 アレルヤとここで会うときは、いつも繰り返される同じ会話だ。
 丁寧にシャンプーをして、トリートメントまで施してから、今度はスポンジで体を洗ってくれる。最初は首から肩をそっと撫でるように洗い、そして腕、背中、腰。次第にティエリアの体が熱くなるのを知っていて、アレルヤは気づかないふりをする。
「ティエリア、腰もぞもぞさせないで」
「…………」
 ワザと腰から尻のスリットへするっとスポンジを差し入れると、ティエリアの体がそれ以上を欲してピクンと動く。
「ただ洗っているだけなのに、感じないで」
 ワザと耳元で囁きながら、スポンジを持つ手がそのまま腰を伝って前へ移動する。臍の周辺をゆっくり擦り、そして首に向かって上半身前を洗う。ワザと胸の飾りをスポンジで強く撫であげると、軽くティエリアの背中が反り返り、膝立ちで後ろに控えるアレルヤの肩にコツンと頭が当たる。
「ティエリア、ちゃんとしてて」
「…っ、お、お前が…ワザ、とするから」
「僕は何もしてないよ。いいがかりはやめてくれないかな」
 アレルヤの言葉は態度より遥かに冷たい。同じ言葉でもアレルヤが口にするだけで冷たく感じる。
「ティエリア、反応してるよ」
 片手で乳首周辺をスポンジで撫でながら、もう片方の手がティエリアの勃ち始めた股間を触る。
「んっ」
 きゅっと目をつぶったまま、足を閉じようとするのを「足は開いたまま」と優しく牽制して、果物のようにみずみずしく可愛いティエリアの性器をぎゅっと握って扱いてあげると、あっという間にぴょんと完勃ちして、さらに扱けば先走りが垂れてくる前に白濁液がぴゅるっと間欠泉のように噴き出てくる。
 噴き出た白い液はシャワーの湯とともにあっという間に排水溝に流れ落ち、瞬く間にその痕跡を消す。
 まるでこんな行為さえもなかったかのように。アレルヤのティエリアを触ったという事実さえも打ち消すように。
「気持ちよかった?」
「……、アレルヤ、も……」
「僕はいいんだよ。ちゃんと別のところで済ませているから」
「……」
 やはり、アレルヤは冷たい。
 触ってくれる手は暖かいのに。言葉は暖かいのに。頬笑みは暖かいのに。
 でもアレルヤ自身は冷たい。ティエリアにだけ、冷たい。
(俺のことが嫌いなのか?どうしてこうなってしまった?)
 何度も聞こうと思った。逢う度に聞こうと思う。でも聞けない。触れてもくれなくなってしまったら困るから。
 本当に自分に興味を向けてもらえなくなってしまったら、ティエリアは生きていけないから。
 アレルヤがティエリアをどうしたいのか、どう思っているのか、全くわからない。でもこうやって触れてくれているうちはまだ望みがある。たとえ暇つぶしだとしても、何か目的があるのだとしても、アレルヤの中での理由がどうであれ、接触があるうちはアレルヤの中にティエリアの存在はまだ生きている。
 今のティエリアには、もう今の状態にすがるしかなかった。
 他の可能性は、とっくの昔に消去せざるをえなかった。
 石鹸の泡をすべて洗い流してから、また抱きかかえられて湯船に連れていかれる。
 ティエリアだけを湯船に入れて、アレルヤはモスグリーンの縁取りがしてある風呂のタイル縁に両腕を組み合わせ、その上に顎を乗せてティエリアをじっと見つめる。
「ちゃんと温まるんだよ。お風呂は精神安定にもいいっていうからね」
 目の前にいるお前こそが精神不安定要素だというのに、本人はそれに気づいていて気付かないふりをする。
 ティエリアが自分にどう接していいのか混乱しているのを承知で、他の誰かの存在をにおわす。
 ティエリアの体だけを弄び、絶対に自分自身を挿れようとはしない。
(お前なんか大嫌いだ。もう二度と会いたくない)
 そう頭は言いたいのに、心が言えないでいる。そんなティエリアの心と頭の勝負をアレルヤは知っている。そしていつも頭ではなく心が勝つこともアレルヤは確信している。
 しばらくの間アレルヤの笑みに見守られながら湯船に浸かっていると、アレルヤは満足そうに頷いた。
「じゃあ、僕は先に行くからね」
「どこに…」
「ちょっとね。ティエリアの気持ちよさそうな顔見てたら、僕もしたくなっちゃったよ。幸い明日はお休みだから、適当にゆっくりしてくるよ」
 じゃあと立ち上がり、アレルヤは背を向ける。さようならのキスも名残惜しさを見せる包容もなにもない。
 スライドドアの向こうにアレルヤが消える。一度も振り返らなかった。
 ティエリアの目からポロっと何かが零れ落ちたが、全身濡れているから誰にもわからない。それに元からここには誰もいない。居て欲しい人は今出て行ってしまった。
 思わず声が漏れてしまいそうになり、ティエリアはぎゅっと唇を噛んだ。
 また一人になり、途端に女性風呂の声が響いてきた。いつもなら五月蠅いと眉をしかめるティエリアだったが、今は誰かもわからない笑い声が嬉しかった。