世の中には人より自分の方が優れているかとか、他人より自分の方が持ち物がよいとか、とにかく他人と比べて自分の方がステータスやら何やらが高く高価な方がよいと考えている人間が多いものだ。多いというよりは大半がそうだろう。電車に乗れば二等車より一等車の方が良いに決まっているし、劇場に行けば平席よりバルコニー席に憧れる。映画館に行くならその場でチケットを買うより事前にオンライン予約でもしていったほうがスマートに見える。
世の中はそうなのだ。
だが、ここにそれら世の中とは全く違う意識を持った生き物がいる。
ニール・ディランディの恋人、ティエリア・アーデ、性別男、出身地某田舎の常夏島だ。
ティエリアの思考は一般的にある法則以外の「何か」に沿ってなされる。ニールにとってこれはかなり前、そう、ティエリアと出会って暫くした頃には既に把握していた事実だ。ではその「何か」は何なのか、これはまだニールにも未だにはっきりと見えてこない。ティエリア自身の思考パターンとは全く別の形態を取っているようなのだが、その全貌はまだ解明できていない。
そこがティエリアという生き物の奥深さと言えばそのとおり。一生の研究材料としては申し分ないだろう。
そんな研究対象?であるティエリアと島からプロペラ機ではないものの古い機体でロンドンまで辿り着き、スムーズに乗り換えを済ませて最終目的地までの機上の人となるはずだったのだが……。
ロンドン空港に降り立ってから次の飛行機の搭乗時刻まで三十分、移動だけには丁度よい時間だったがやはりロンドン、どこにでもパパラッチはいる。プレスの腕章をさげていればまだ可愛いものの、中には旅行客のフリをして密かにカメラを構えているのもうじゃうじゃいるのだ。それにも増してえげつないのは本当の観光客たちだ。「ニール・ディランディがいる」と誰かが囁けばその声は音速の如く空港内を駆け回る。どこを歩いてもパチパチと音が絶えない。
自分は取られてもしょうがないと諦めているが、横で一緒に歩くティエリアを被写体にするのだけは我慢がならない。ティエリアは普通の人だ。いや、あんまり普通の人と胸を張って言えない部分もあって辛いのだが、括り的には「普通の人」「一般ピープル」だ。
ニールとしては一緒に歩かせることにも様々な思いがよぎる。コンコースを次の搭乗ゲートに向かって歩きながらちらっと横の紫の頭を下に見る。
「お前、帽子とか持ってきたよな?」
「持ってきた」
「被んねえの?」
白い顔の中の紅い瞳がはあ?と不可解さを浮き上がらせる。
「どうして室内にいて帽子を被らなければならない?」
「…もっともでござ〜い」
「茶化すな」
常夏島育ちのティエリアには帽子やサングラスは陽の下にいるからこその必需品という認識がある。しかも、これはティエリアに限ったことではないが、あの島の住民はニールを「俳優」ではなく「歯医者さんの彼氏」として認識している。普段ニールが何処に行こうが誰も「写真撮らせて」だの「サインが欲しい」と強請らない。ニールが一年前に島の住民になった時点から、皆の意識は「有名人のお客さん」から「タダの一番新しい島民」に様変わりした。そんな一種のほほんとした普段の環境に慣れきっていたニールは、久々に感じる都会の好奇な視線を今までよりも更に鬱陶しく感じるようになっていた。自分が目立たないことに慣れるのは役者としてはマイナスだとマネージャーにも散々電話で小言を言われるが、今は自分を取り巻く普通の環境が居心地良すぎてしょうがない。
ティエリアはそんなニールとは逆だった。
普段はおくびにも出さないがその実ニールをきちんと有名人だと認識している。ニールが越してきた頃はそうでもなかったが、やはりあの大喧嘩の辺りからだろうか。次第に自分が一緒に住んでいる人間は有名で地球上どこへ行っても目立つという事実を認識したらしい。認識するとしっかり自分の生活に植えつけるのもティエリアの特徴だ。最近は二人でどこかへ出掛けたり全くの他人が同席するような場所ではニールに対して一歩引いて接するようになった。それを寂しいと感じる度に、自分はこの不可解な生き物が好きなのだなあと我ながら感心するのだ。
「お前のような芸能人ならまだしも、俺には自分の顔を隠す必要も言われもない」
「寂しいこと言うなよ」
帽子とサングラスに隠れた顔でニヤッと笑うと、「その笑い顔はにやけてて嫌いだ」と突き放される。ニール個人としては超絶美形であるティエリアを横において歩くのは悪い気はしない。別に露出趣味があるわけではないが自分の綺麗な所有物は見せびらかしたいと思うのが人間の男というものだろう。それでもティエリアは「一般人」で「芸能人」じゃない。その姿かたちにプライバシー法が適用される身だ。ニールと一緒に写真に写っても基本的にティエリアの顔には黒線が入る。最低限のプライバシーは守れるようになっている。最低限は。
「大丈夫だ。お前と一緒ならかまわない」
「……」
「お前となら写真に写ってもいい」
「ティエリア…」
「だから気にするな」
な、と自分の中での決心を噛み締めるように頷いたティエリアは、きゅっとニールの腕を掴んだ。周りがかすかにざわめく。携帯でニールを撮ろうとしていた数人の女性たちの手が止まる。ティエリアが全く我関せずの姿勢でさっさかと歩を進める。美長身を大股で揺らすニールの横で二倍速で懸命に横に並んで歩く。
見慣れた無愛想な表情の中に含羞が隠れている。ニールは自分の腕を掴む小柄な手を解くと、自分の手の中に包み込んだ。手を握って歩くのは久しぶりだ。大喧嘩をして行方不明になったティエリアを探し出して一緒に帰ったあの日以来だ。
「お前、いいのか。皆見てるぞ」
「いいんだよ」
ニールの思いが通じたのか、何故かどの方角からもフラッシュの光は飛んでこなかった。皆ただ遠巻きにじっとティエリアと手を繋ぐニールを観察しているだけだった。
次の飛行機に乗り込み、搭乗券の半券に書かれた座席、機首に位置するファーストクラスの一角に腰を落ち着けた二人だったが、ティエリアは広々としたソファのようなシートに収まるなり、「ファーストクラスは嫌いだ」と言った。
「なんで」
「なんででも」
「じゃあビジネスがよかったのか?」
「……」
締めたシートベルトをまた外して立ち上がると、ティエリアはカーテンで仕切られた後方、ビジネスクラスエリアに入っていく。
(何が気に入らないんだ、あいつは)
やはり全く持って理解不能だ。普通飛行機ではファーストクラス、ビジネスクラス、そしてエコノミークラスの三カテゴリーしかない。当然ファーストクラスは一番値段が高いわけで、高いということは座席も広いしサービスもそこらの高級レストラン並だ。今時のファーストクラスで叶わない希望は飛行中に「窓を開けてくれ」なんて無茶な注文ぐらいだろう。
しかし。
ティエリアはティエリアだ。ティエリアは「普通の人」ではない。
そのティエリアは暫く戻ってこなかった。出発前のサービスである飲み物を飲み終わってもまだ戻ってこない。だんだんと出発の準備が始まりドアも閉まり出発のアナウンスが始まろうとする頃、ようやくティエリアは戻ってきた。通路側に座っているニールの前を通って窓際の自分の席に着く。その顔はやはり不機嫌そうだ。
「どうだった、後ろは」
「ビジネスクラスは良くなかった」
「そりゃそうだろ」
「エコノミークラスがいい」
「…は?」
「後ろの席のほうがよかった」
飛行機がサテライトから離れてゆっくり動き出す。アナウンスが最終のシートベルト確認を促す。
「後ろってエコノミーだぞ。あのぎゅうぎゅうに詰め込まれて隣の人と膝がこんにちは、みてえな席だぞ?」
「あっちがよかった」
窓から外をぼっと眺めながら脱力したように呟かれる。
「この席じゃ窓だってロクに手が届かないじゃない」
ほらと手を小さな楕円の窓に向けるティエリアは、席と窓の間が大きく隙間があるのが気に入らないようだ。ファーストクラスはその金額に見合うように一席ずつが広く作られている。隣席との間も充分食事できそうなほど広いテーブル兼肘掛で仕切られているし、スイッチ一つで半個室のように自分の席を覆うこともできる。当然眠るときには座席は真水平のベッドに様変わりする。勿論羽根布団と枕つきだ。
「だって広いほうがいいだろ、お前だって。プライバシーだって守れるし」
「時と場合による」
「なんだよ、時と場合って。じゃあお前が広いほうがいいのはどんな「時と場合」なわけ?」
「……一人のとき」
「今だって一人じゃねえか」
「もういい。お前なんか知らない」
ぷいっと窓に顔を向けたティエリアの背中が「喋りかけるな」とニールを威圧する。
「ったく何がしたいんだかな、お前は」
「……」
「俺がこのクラスしか乗れないのはわかってるよな。いろいろいつも文句言うお前もこの席なら満足してくれるかと思って黙って予約しちまったけど、お前は安い席の方がよかったなんて知らなかったよ。今度からはちゃんとそうするからさ」
「……別に安い席が言いなんて言ってない…」
「だってエコノミーがいいんだろ?」
「別にエコノミーがいいなんて言ってない…」
「言ったじゃねえか」
「…別にそういう意味じゃない」
「じゃあどういう意味?」
大人げなくイライラした口調で聞いてしまったと思うが、既にティエリアはニールが機嫌が悪いことで自分も更に気分下降に陥っている。いつもならここで一歩引いてフォローにまわるニールだが、今はその気分にもなれなかった。
初めて二人で旅行に行くのに当たり前に予約したファーストクラスだった。ニールは当然その職業柄乗り慣れているし、飛行機にクラス設定がない限りはファーストクラス以外には乗ったことがない。でも今回予約したのは自分が慣れているからではない。十時間以上席に座って過ごさなければならないのだ。ティエリアに少しでも快適に過ごして欲しかった。ティエリアの為に予約をしたのだ。
飛行機が離陸し、窓の外の景色が雲の白一色になってもティエリアは姿勢を変えようとしなかった。意地でもニールから仲直りの口火を切らせようとしたいらしい。可愛くない態度にニールも意地で自分からは歩み寄らないと、普段なら直ぐにでも掻き抱くティエリアの強張った背中を睨む。
飛行機が水平飛行に移り、早速豪華な食事が始まる。キャビンを行き来する紺色のスーツに身を包んだ女性達は、ニールが誰かは知っているが必要以上の好奇心は出さないプロだ。さりげなく且つ洗練されたサービスで食事の間中ニールとティエリアに尽くしてくれる。ティエリアもさすがに彼女らには無作法はしなかったが、黙って食事を食べ終えると直ぐに備え付けのテレビをセットし、大きなヘッドフォンをつけると映画チャンネルを模索し始めた。ゆっくりと本を捲りながらチーズとワインで食後を楽しんでいたニールは、横目で紫の頭を捕えながら様子を伺う。カチャカチャとチャンネルを変えて吟味した後にティエリアが落ち着いた映画はつい最近ロンドンでも上映を始めたばかりの最新オカルトミステリーだった。
(こいつ、大丈夫なのか、こんなの選んで)
知人の俳優が出ている作品だ。出演した本人もオカルトには滅法弱くて演技中に見たグロテスクなセットに二度失神したと先日ロンドンで笑いながら語ってくれた。出演者すら怖がっているのにオカルトどころかちょっとした怪談すらも怯えるティエリアにこの映画を完観できるはずがない。
案の定最初の二十分程度で不穏な空気を感じたティエリアは、まずヘッドホンを片耳だけずらした。音が半減すれば怖さも半減すると思っているようだ。家で一緒にDVDやテレビを観るときもそうだ。必ずまずは片耳を塞ぎ、次に両耳、そして片目を瞑る。なら観なければいいのにと何を見ても平気なニールは思うのだが、そこはティエリア。人が見れるものを自分が見れないという事実を認めたくないのだ。
食事も終わり、周りもノンビリまったりと雰囲気が崩れた頃、室内の照明が落ちた。仄かにブラウン系の間接照明を残して辺りは薄暗くなる。ファーストクラスの数少ない客もめいめいにシートを下げたりベッドにして寛ぎ始めた。
ニールも靴を脱ぐと背もたれを下げて姿勢を崩す。
ふと気づくと、ティエリアの手が二人の席の間の肘掛を彷徨っていた。肘掛と呼ぶには大きすぎるグラスを置くためのテーブルの上を指が這っている。
ニールを探していた。無意識に。いつもそうだ。最初は気丈に一人離れて座っているくせに徐々にその距離を縮め、気が付くとニールにぴたっと張り付いている。怖い映画を観た後などはぴったりどころかニールの膝の上に座っていることもよくある。ニールの上に抱っこ状態で抱えられて震えているくせに「怖いのか」と聞くと「怖いわけがない」と突っぱねる。
そんなティエリアを見る度に、愛しさが込み上げてくる。自分を無意識化で絶対的に頼ってくれていることを感じる度に、ティエリアという「普通でない」恋人がニールの中での普通に変化していくのだ。
ティエリアの手がまた肘掛の上を行ったりきたりする。何かを探しているように。何かを求めているように。指の付け根にぽつっとできては消える手のえくぼがかわいい。
(ああ、そういうことか…)
なんて自分は馬鹿だ。ニールは独りごちると、彷徨う恋人の手の上から自分の手を重ねて包み込んだ。
ぴくっとティエリアの全身が震える。
「ごめんな、ティエリア」
既にいつのまにかヘッドホンを両耳から外していたティエリアは、数時間ぶりに聞くニールの声に振り向いた。その頭をもう片方の腕で掴んで引き寄せるとそっと唇を合わせる。唇から頬、鼻の頭、そして額へゆっくりとだが確実に唇を当てる。
「ごめんな。お前の気持ち全然わかってなくてさ」
ティエリアは嫌だったのだ。ニールと離れるのが。どんなに横に座っていても二人を隔てる肘掛はなくならないし妙に広い。簡単に手を繋いだり頭を肩に載せられる距離じゃないのだ。エコノミーならそれこそすし詰め状態で嫌でも隣同士は団子のようにくっついていなくてはならないが、ファーストクラスは無駄にお互いが遠い。ティエリアはそれが嫌だったのだ。
「嬉しいよ。お前が俺といつもくっついていたいって思ってくれて」
もう一度唇にキスして囁く。
「べ、別にくっついていたいわけじゃない!お前が横にいると便利だからだ」
「天邪鬼だよな、ホントお前って。でもそういうところが俺は好きだけどな」
「…恥ずかしいことを、ずけずけ言うなっ…役者のくせに…」
役者だから恥ずかしいことも簡単に言えてしまうのだと思うのだが、それは敢えて追及しないでおく。恥ずかしさで頭の中が混乱して沸騰寸前のティエリアにこれ以上喋らせても更に支離滅裂になるだけだろう。
こうして何とか旅の始まりでの喧嘩をやり過ごした二人は、暫くしてお互いのシートで軽く眠りに落ちた。ニールもティエリアもアテンダントに椅子をフラットにして寝住まいを整えてもらった。当然ながら一緒にくっついて眠ることはできない。ニールは布団に潜り込む前にもう一度ティエリアの手に口付けた。
「怖くなったら遠慮なく起こせよ」
「安心しろ。俺は大丈夫だ」
「そうだといいな」
ティエリアの手はニールの元から抜け出ると、テレビ画面の液晶を伝う。今度は別の映画を見るようだ。まだ眠たくならないらしい。画面が切り替わり、別の映画の始まりが映る。ティエリアの白い顔にぼわっと画面の明るさが反射する。恋人の端整な横顔を見ながらニールは目を閉じた。
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ウッ…、ズルズル、クッ…
湿っぽい音に耳を刺激されて目を開けると、相変わらず室内は暗く周囲もシンと静まりかえっている。飛行機のエンジンが打ち出すゴーッという唸り音だけが間断なく聞えてくる。
ヒッ…、グシッ…
薄目のまま横を見上げると、ティエリアはまだ映画を見ていた。なぜかベッドの上で体育座りして羽毛布団を肩から蓑のように被っている。じっと画面に釘付けになっている白い顔から大きな何かがボロボロと落ちていくさまに、ニールは一瞬あっけにとられた。
ティエリアが、泣いていた。
まるでビー球のような大きな涙をボロボロ零して、それを拭こうともしない。紅い瞳から次々と零れ落ちるそれはまるで彼岸花色のビー球のようだ。
(きれいだ…)
赤透明な水の玉が生まれては落ちて布団に染み込む。
画面で展開されている映画は、やはりニールの知り合いの女優が出ている悲恋モノだった。どこまでも女性が救われない物語で、彼女はこの映画で今年主演女優賞を取った。ニールも先行プレミアで鑑賞したときに良い映画だとは思ったが、ティエリアのように号泣する程共感できたわけでもなかった。
ティエリアはニールより遥かに感性が豊かだ。プロの役者として羨ましいぐらいに。
「……!!」
突然ティエリアがこちらを向いた。視線が衝突する。
「あんまり泣くと目、腫れんぞ」
「……」
「こするなよ」
布団の中から手を伸ばしたが、ティエリアはふっと避ける。
「なんだよ?」
「……」
映画を一時停止したようだ。画面の女性が中途半端に口を開いたまま止まる。ティエリアはヘッドホンを外して立ち上がると、横たわるニールの上を跨ぎ渡って後方へダッシュして消えた。
(トイレか? トイレで顔でも洗うのか…)
別にダッシュしなくてもトイレはなくならないだろうに等と画面の止まった友人女優を視界に入れてぼっとしていたら、暫くしてティエリアが戻ってきた。またニールを跨いで自分の席に座る。
ニールは再度腕を伸ばすと、ティエリアの頬に触れようとした。
「来るなっ」
「え?」
「俺の領域に入ってくるな」
「は?」
「この肘掛の真ん中からこっちは俺の領域だ。せっかく広々しているんだから態々入ってくるな」
勢いに押されて手を引っ込めたものの、真っ赤な目周と首まで照れて桜色に染まった姿ではとてもじゃないが説得力も威圧力もない。
泣いていたのを見られたのが恥ずかしいなら、素直に言えばいいのにティエリアはどこまでも素直じゃないし本心をごまかすこともできない。
いつまでたってもお子様だ。
「お前さっきはエコノミーがいいって言ってたじゃん。狭くてくっついている方がいいって言ってたじゃん」
「言ってない。俺はこういう広くて誰にも邪魔されない席が好きだ。だからお前も邪魔するな。入ってくるな。こっちを見るな」
「…要求増えてるって」
「うるさい!!」
「はいはい…。ったくそういう言い草はホラー見ながら言えっつうの」
ニールは亀のように首をすくめながら布団にもぐりこんだ。どうせまた何かあればニールの存在を必要とするのだ。結末が解っているから手の平の上で遊ばせてやることもできる。
程なくしてまたそっと布団から目下までを出したニールは、またもや独りボロボロと紅いビー球を零しながら画面に夢中になっている恋人の姿を堪能することができた。
誰にも見られていないと素直な泣き顔を披露してくれるティエリアは、今まで見たどんなティエリアよりも麗しかった。
その艶麗な態は、ファーストクラスで二人の間に空間が隔たろうともはっきりとニールの脳裏に焼きついたのだった。